(書評)テクノ・リバタリアン   橘 玲

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この本はサブタイトルにもある「世界を変える唯一の思想」=テクノ・リバタリアニズムについて解説している本です。

リバタリアニズム ひとは自由に生きるのが素晴らしい
リベラリズム ひとは自由に生きるのが素晴らしい。しかし平等も大事だ
共同体主義 ひとは自由に生きるのが素晴らしい。しかし伝統も大事だ      P19

リバタリアニズムの主張(自由主義)を批判するのは自由を否定することなので困難です。
自由主義を前提として、考えが分かれていきます。

テクノ・リバタリアンは、自由を重視する功利主義者のうち、きわめて高い論理・数学的能力をもつ者たちのことだ。                        
リバタリアニズムと功利主義は国家の過度な規制に反対し、自由で効率的な市場が公正でゆたかな社会をつくると考える。                         P26

功利主義は合理性によって幸福を最大化することを目指します。
論理・数学的能力を駆使してテクノロジーで自由と幸福の実現を目指しているといえるでしょう。
その考え方は正義感覚を重視する人と対立します。

この世界に存在するすべての物質(もちろん人間も含まれる)はひとつの単純な規則に従っている。それが、「流れがあり、かつ自由な領域があるのなら、より速く、よりなめらかに動くように進化する」という原理で、これには例外がない。           P188

物理学者エイドリアン・べジャンが唱えるコンストラクタル法則です。河川の分岐パターンなどを例に説明しています。「より速く、よりなめらかに動くように進化する」という目的に向けて進化していることになり、速度はいつも同じであらゆるところへ隅々まで行き渡ることはない、ということになります。

「自由が拡大すれば必然的に階層化が進む」のが普遍の法則ならば、社会がよりゆたかに、より自由になるほど、階層性(不平等)は拡大していくだろう。ここには冷徹な「進化の法則」があるだけで、どこにも「不公正」なことは起きていない。       P191

階層性(不平等)=富の差がより大きくなることがコンストラクタル法則にあてはまる、ということであれば、あらためて進化は各個人にとって必ずしも良いことではないことが分かります。

日本では~リバタリアニズムは無視されるか、アメリカに特有の奇妙な信念(トランプ支持者の陰謀論)として切り捨てられている。だがリバタリアニズムは、いまや指数関数的に高度化するテクノロジーと結びつき、世界を変える唯一の思想=テクノ・リバタリアニズムへと〝進化〟している。ところが日本の偏った言論空間に囚われていると、イーロン・マスクやピーター・ティール、あるいはオープンAIのサム・アルトマン~がリバタリアンであることの意味がまったくわからない。  P202        

日本の会社で合理化、効率化が嫌われるのは安住してきたウェットで差別的な人間関係が破壊されてしまうから、テクノ・リバタリアンは受け入れられず、情報も来ないとしています。

テクノ・リバタリアニズムがアメリカを中心とした世界の主流となれば日本もその影響は免れないでしょう。
テクノ・リバタリアニズムが階層化を促せば、現在日本で受け入れられなくてもそれを避けることはできずに、将来はアメリカにより近い社会になると思います。
日本の停滞は社会の安定に貢献している部分もあり、それについては複雑な思いもありますが、テクノロジーの進化とともに人間も進化していくことは避けられないのでは、と思いました。
階層性(不平等)は進化の法則であり不公正ではない、というところが特に印象に残りました。

以上、テクノ・リバタリアンの書評でした。

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